壁の穴

暗闇に投げ出された孤児のように浮かぶ月の下であなたは今日二度目の食事をとるの。

軽く炙ったウインナーと、刻んだレタスにごま塩のドレッシングをかけたサラダ。ドレッシングは近所のスーパーで98円で売ってるのよね。

簡素な小皿に載せた品々を、箸でつまむ。その傍らには発泡酒があるの。あなたはお酒にそれほど強くないから、そのペースは遅め。常温に放置され汗をかいた缶と、それを優しく握るあなたの細くて白い指が好き。

ただ無意味につけてあるTVが9時のニュースを映すころには、あなたはすっかり酔いがまわり、赤ら顔。でも、その状態のほうが良い作品が書けるのよね。

パソコンが発達したこのご時世に原稿用紙に書くなんて、素人の私には信じられない。

風俗move

けれど、その上をなぞる鉛筆が奏でる音は、私の脳を心地よく刺激する。その音は、私の厚着をした心の身ぐるみをはがしていき、私をむき出しにする。

酔いが醒めて、執筆が一段落すると、あなたはお風呂に入るの。けれど今日は調子が良いみたいで、冷蔵庫から二本目の缶ビールを取り出す。おつまみもないくせに強がっちゃって。

けれど、あなたが鉛筆を走らせる音が少しでも長く聞けて幸せ。

私の裸の心が喘いでいるのが分かる。

あなたのその指で、私を頂点へと導いてほしい。

でも、私の思い通りになったことはないの。

あなたは私の傍にいるわけではないから。

あなたと私の間には壁があるから。

私とあなたは、ただのお隣さんだから。

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